ある夏の日 Ystad で

2009.09.14.
Ystad で Munkmarknad (坊さん市)が開かれるというので行ってみたのは、確か7月7日だったか。

Munk とは、英語の monk、「お坊さん及び修道士」のこと。 中世の街並みが残る Ystad では、カトリック時代の修道院跡もあり、修道士のマスコットが町のシンボルになっています。

また、スウェーデン語で munk は「ドーナッツ」のことでもあります。

Ystad のウェブサイトで、修道士の格好をしたおじさんがドーナツを売っている写真が楽しそうだったので行ったのだが、時間が早かったのか、ハンドメイド品などを売る屋台が通りに店を出しているだけだった・・・

夫が「かわいい~♪」と気に入っちゃったので買ってあげた、樹脂細工の小さなネズミが、唯一のこの日の買い物。

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しかし Ystad は、古い民家が並ぶ通りを、のんびり歩くだけで目の保養に。

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家の外壁やドアは、花やベンチなどで個性的なデコレーションをあしらい、さりげなく人に見せるために飾られた窓辺も、通りすがりの者達の目を楽しませてくれます。

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そんな家のひとつ、ぼうぼうと茂る Stockrosor(タチアオイ)に見とれていたら、一人のおじいさんが門のドアを閉めるのに四苦八苦していました。 

夫が「手伝いましょうか」と声をかけたら、おじいさんは「大丈夫だよ」と門を一旦閉めたのでしたが、それをまた開けて、「うちの庭見たい?」と私達を中に招き入れたのでした。

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そのお庭は、昔は馬と馬車を置く場所で、今は地下に埋められちゃったけど、横には小川が流れていました。 おじいさんは若い頃、ボランティアの医師としてイスラエル、パレスチナ、アフリカに行き、その地で咲いていた植物の種を持って帰り、この庭に植えたところ、スウェーデンでも南端の暖かい気候なのと、馬小屋があった場所では馬の排出物から堆肥を作っていたので、ぐんぐん成長したのでした。

まぁ、ジャングル状態だったんだけど。

さらにおじいさんは、1700年代に建てられたという家の中まで案内してくださいました。

中に一歩踏み入れると、広いリビングがあり、壁側にはありとあらゆる年代物の品々が、びっしり置かれ、窓際の椅子にはおばあさんが座りアコーディオンを弾いていました!

おじいさんとおばあさんは兄弟姉妹で、この古い家で生まれ育ちました。 (しかしお年寄りで体が不自由なためか、庭も家の中もおじいさんおばあさんご本人も、手入れが行き届いていないので雑然としているのが、また独特な雰囲気を醸し出して・・・。)

壁には絵画やイコンが掛かっていて、肖像画のひとつは、おじいさんおばあさんの貴族のご先祖。 (お二人はスウェーデン貴族の血をひいているのだ。) そのオリジナルはストックホルムにあり、ここにあるのはおばあさんが模写したもので、イコンはおじいさんが描いたものだそうです。

おじいさんは銀細工師でもあり(いろいろな職業についていたのだ)、美しい銀のティアラは彼が作ったものです。

台所の壁にかかる大きな鮮やかな色のタペストリーは、エジプトで彼が世話をした人々が、感謝の印に手で織り、おじいさんに贈ったものです。

そうして、おじいさんがいろいろ説明してくれる間、足の手術をしたばかりで動けないおばあさんは椅子に座ってアコーディオンを弾き続けるのでした。

最後におじいさんは、鎖の先に金の指輪を下げ、壁からはずしたイコンの上にかざし「こうすると聖なるものに反応するのだ。 見てご覧」と言い始めました。 今度は外に出て指輪を地面にかざし、「こうして水が流れている場所が分かるのだ」。 さらに「わしがアフリカで働いていたとき、胸騒ぎがして、ある家の中に入ると、そこには瀕死の急患がいて命を取りとめることができた」というようなお話を披露してくれました。

おじいさんおばあさんに別れを告げ、薄暗い部屋の中から青空が広がる外に出たとき、眩しい夏の日差しに目がクラクラし、私達はいっとき、魔法の館で魔女や魔法使いと過ごしたような錯覚に陥ったのでした。

余談: Ystad は Henning Mankell のベストセラー犯罪推理小説 Kurt Wallander シリーズの舞台でもあります。
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この日の夜は、Wallanderloppet(ヴァランダー・マラソン)なるものも行われてた模様。 刑事ヴァランダーが走ったイースタの街を駆け抜ける!という趣向?
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コメント
Mevさんへ
いえいえ、コメントはいつでもお好きなときに。
いやいや、星新一さんや村上春樹氏を引き合いに出されるほどでは・・・ でも現実はフィックションより奇なり。 
今更のコメントですみません。 まあ、なんて素敵なお話でしょうか。まるで童話、いえ、星新一の小説のようでもあり、はたまた村上春樹の劇中劇のようでもあり。 極上のエッセイを拝読させていただいて幸せな気持ちです。
らくだのせなかさんへ
おおっ~、らくだのせなかさんご夫妻は Wallander(スウェーデン版?)観てらしたんですね!
Ystadは小さな田舎町で、でも最近はこのような古い家が金持ちに人気で地価が上がっているようなところ。 Wallander はシリアスな犯罪ドラマだから、Wallander だけでYstadを知っていると、そんなイメージになってしまうかもしれませんが、(夏は)明るい観光名所でもあるんですよ。 いつか、ぜひぜひ訪れてみてください! 小説の中の犯罪はフィックションだけど、Wallander がよく行くカフェとか実在してます。
意外や意外
Ystadって、地名を読んで、すぐに「あ??」と思いました。夫婦揃って、Wallander(テレビドラマ)に熱中した時期がありまして・・・。
ドラマ中は、Ystadって、暗くてさみしくて、重苦しいイメージがあるんですが、Chakyさんの写真とエピソードを拝見すると、全く逆。

とても明るい色の家に、ほのぼのしたエピソード。
こんな町なら、いつか足を踏み入れてみたいという気分になりました。
tulpさんへ
名前だけで大したことなかった「坊さん市」だけど、この町の古いお家は小さくて、パステルカラーで、本当に可愛らしでしょ♪ こんなところだからこそ、不思議で温かい時間と空間に紛れ込んでしまったのかも。
アリスさんへ
お医者さんで銀細工師で、ペテン師っぽいとこもあって?マルチなおじいさん(笑)。
もう研修始まったのですね。 でも、若いときの苦労は後に大切な思い出になるかも。 このおじいさんのように、ね!
めたるさんへ
お年寄りの昔話をお聞ききするのは、本当に歴史を感じ興味深いですよね。 作られたファンタジーより奇想天外なり!
あ、このお二人はご夫婦ではなく兄弟姉妹だったのです。 ずっーと独身だったのか、伴侶に先立たれ二人で暮らし始めたのか・・・ でも、二人の歴史を感じさせる老夫婦というのも、素敵ですね。 そうなりたいものです。
HISAさんへ
こちらも急速に日が短くなりつつあります。 彼岸花、こちらにはないので懐かしいです。

おじいさんも不思議ですが、アコーディオンを弾くおばあさんも現実離れしていますよね! これが日本だったら・・・ 畳の上に正座したおばあさんが三味線を弾いていた、とか!?
エミリアさんへ
「坊さん市」といっても名前だけで、これというものはなかったのですが、その後に遭遇した不思議な体験・・・ いやぁ、おじいさん、最初はお喋り好きなお年寄りかな~位に思っていたら、別の世界に連れて行かれそうになりました(笑)。  
「坊さん市」ってなんか面白そうですね。
Ystadはかわいいお家が多いですね~。
最初のおうちなんて、ピンク色の壁に窓枠やドアのブルーが素敵!
そして偶然出会ったおじいさん、おばあさんとのひと時も良いですね。ちょっと不思議で温かい時間が流れていたんだろうなあと勝手に想像してしまいました(^^)

は~面白い!私も出会いたい、そういうおじいさん。
小さな市も大好きだし。
お医者さんで銀細工師っていうのがまたよいですね。
マルチだわ。。。
研修に戻りちょっぴりくたくたです。
素敵な出会い
ほのぼのとした素敵な出会いですね。小説や映画の中の1シーンのような。お年寄りの昔話はその人の生きてきた歴史を感じますね。

それにして二人が寄り添って生きている老夫婦っていいな。日本には、あまりモデルになる老夫婦(老夫婦に限らず若い人でも)っていないですけどね(笑)
そろそろ彼岸花が見られる時季になりました。日も短く
なってきて夏大好きな私は少し寂しいです。

おじいさんとの出会い、なんだか短編映画を観たような~それぞれのシーンが
目に浮かんできます。おばあさんが椅子にすわってアコーディオンをひいて
いるなんて現実離れしていて不思議!やはり日本とは違いますね。
面白そう
坊さん市というのは、蚤の市とはまた違うのでしょうね。まさかドーナッツを売るなんてことは…(笑) 門のドアが縁で、不思議な体験をしたのですね。部屋の中の様子が手にとるように分かる描写です。イタリアでそんなおじいさんがいたとしても、何だか胡散臭いだけだけれど、あの国のあんな雰囲気の家の中で(実際にこの目で見たあとだから尚更)、そんな儀式めいたことがあったら、ふっと信じてしまいそう。

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